電気・ガス・水道、交通、医療、インターネット――こうした「当たり前」と思われている日常の便利さは、すべて「技術」の上に成り立っています。技術力とは、わたしたちの暮らしを目に見えないところで支え、国としての持続力や競争力を生み出す大切な土台です。
技術力とは何か
技術力とは、単に「機械を作る力」だけではありません。次のような広い分野を含みます。
- インフラ:道路、鉄道、上下水道、電力、通信など
- 産業技術:ものづくり、ロボット、IT、半導体など
- 科学技術:大学・研究機関などで行われる基礎研究や応用研究
- 医療技術:診断・治療・介護などの制度や装置
これらはどれも、日々の生活の安全・安心と、将来の希望を支える根幹です。
技術力が弱まるとどうなるか
技術の力が失われると、まず最初に見えてくるのは、暮らしの「不便さ」と「不安」です。
- 地震や大雨などの災害時にインフラがすぐ止まり、復旧が遅れる
- 通院や救急時に、適切な医療を受けられない
- 高齢者や子どもを守るための支援システムが整わない
- 工場が稼働できず、モノが作れず、働く場所も減っていく
- 必要な技術を海外から高いお金で買うしかなくなる
- 「日本製」「日本の研究」が信頼されなくなり、国際的な地位が落ちていく
最も重要なのは、技術——すなわちノウハウの継承と向上です。
これが損なわれれば、経済力、資源開発力、国防力をはじめ、あらゆる国力の衰退は避けられません。
日本の現状
かつての日本は「技術立国」と呼ばれましたが、その姿は今、大きく揺らいでいます。
- 1995年をピークに、公共投資(インフラ整備)への予算は大幅に減少し、2022年には約6割にまで縮小しました。
- 科学技術の分野では、世界的な研究成果を生み出す力が低下。2023年には、日本が生み出した注目学術論文の数がインド、オーストラリア、カナダ、韓国、スペイン、イランを下回り、世界13位に後退しています。
これらはすべて、技術や学術への投資を怠った結果として表れてきたものです。
また医療分野では構造的な問題として、慢性期医療に対する「過剰医療」とも呼ばれる問題が指摘されています。
技術力を支えるもの
技術力は、自然に生まれてくるものではありません。それを支えるのは、以下のような要素です。
- 教育:子どもたちが科学や工学を学び、研究者や技術者に憧れ、目指すこと
- 研究者や技術者が育つ環境:研究開発やインフラ整備に十分な投資があること
- 政治力:研究や技術への継続的な支援を判断・実行する国の目指すべき姿が明確であること
- 資源・防衛との連携:技術は単体では機能せず、他の分野と結びついて初めて力を発揮
多種多様かつ自由な教育研究こそが新たな技術の開発と新たな技術の組み合わせという形で世界を変えるイノベーションを起こします。
選択と集中が叫ばれますが、既存の知識ではなく未知の「新結合」こそがイノベーションであるため、選択と集中は本質的にイノベーションとは相反するのです。選択と集中を推進すればするほどイノベーションが生まれない環境となるにもかかわらず「なぜ日本はイノベーションが生まれないのだろう?」というのは「そうしているから」としかいいようがありません。
技術力とは、「国の頭脳」であり「手足」であり、同時に「未来への橋」でもあります。それを育てるのは、今日のわたしたちの関心と選択にかかっています。
「今」の多種多様かつ自由な科学技術・教育・研究への投資は「次世代へのツケの先送り」なんかでは決してなく、全く逆に「次世代への富の先送り」となるのです。